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東京高等裁判所 昭和62年(行コ)98号 判決

控訴人(原告) 関英夫

被控訴人(被告) 芝税務署長

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が昭和五二年六月二九日付けで被控訴人に対し芝資特第七九号をもってした相続税の再更正(ただし、異議決定による取消し後のもの)及び過少申告加算税賦課決定(ただし、異議決定及び審査裁決による取消し後のもの)を取り消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示のとおりである(ただし、原判決三枚目表三行目の「5」を「6」と、同一五枚目裏九行目の「物件」を「物権」と、同二六枚目表三行目の「一」を「(一)」と各改める。)から、これをここに引用する。

1  控訴人

(一)  本件更正処分は、相続税法三五条三項に基づきなされたものである。しかし、相続税法三五条三項による更正は、同法三二条一号から四号までの規定による更正請求に基づき更正した場合において行うべき処分であり、同法三二条一号から四号までの規定による更正請求に基づく更正をしないで相続税法三五条三項の更正処分をすることは許されない。本件更正処分は、控訴人と訴外甘粕洋子との間の訴訟上の和解を同法三二条一号に規定する事由(遺産分割)とし、同条の所定の手続を経ないで相続税法三五条三項に基づいてしたもので、違法である。

(二)  仮に、贈与について現実の履行行為を要するとしても、訴外会社に貸付けられ又は定期預金された仮名定期預金及び無記名貸付信託の元金の総額のうち金一五〇〇万円相当のものは訴外金松から控訴人に預金証書を含めて引渡が終了しており、右については遺産から控除すべきである。すなわち、

本件相続開始当時、訴外金松から引渡を受けた裏預金証書のうち控訴人が所持していたものは、別表一二・番号1ないし21の仮名又は無記名の定期預金二一口合計三六七七万円であり、また、同表・番号22ないし25の仮名定期預金元金合計一〇五〇万円分は解約され、その解約金が訴外会社に貸付られ、また、同表・番号26ないし35の無記名貸付信託一一口元金合計一一〇〇万円分は売却され、その売却金を原資として港信用金庫芝支店に定期預金された。右の仮名又は無記名の定期預金の元金及び解約又は売却されて訴外会社に貸付けられ又は定期預金された仮名定期預金及び無記名貸付信託の元金の合計は金六七二七万円である。そのうち、金一五〇〇万円相当のものは控訴人に証書を引き渡して贈与されたものであり、相続税の課税対象から除外されるべきである。

2  被控訴人

控訴人の1の主張は、争う。

三  証拠関係〈省略〉

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり、付加し、訂正し、削除するほかは、原判決理由説示と同一であるから、これをここに引用する。

1(一)  原判決五六枚目表八行目の「(」、同裏一〇行目及び同五七枚目表二行目の「(」の次に各「原審」を、同五六枚目裏一〇行目及び同五七枚目表三行目の「三回」の次に各「、当審」を、同五六枚目裏七行目の「がつて」の次に「原本が存在し、それが」を、同一〇行目の「一」、同行目の「三」、同五七枚目表三行目の「一」、同行目の「三」の各前に各「第」を各加え、同五八枚目表末行の「、」を、同五九枚目裏四行目の「(」から同末行の「)」までを各削除し、同六五枚目表七行目の「認む」を「認める」と各改める。

(二)  同六五枚目裏六行目及び同末行の「(」の次に各「原審」を、同七行目及び同末行の「三回」の次に「、当審」を、同六六枚目表七行目の「原告」の次に「、訴外」を各加え、同六八枚目表一〇行目の「原告及び」を、同末行目の「各」を各削除し、同裏九行目の「なお、」から同一〇行目末尾までを「その際、訴外ふじは、訴外洋子らに対し控訴人にも一五〇〇万円あげる旨のことを述べたが、控訴人に対し現金はもとより、定期預金証書も一切渡さなかった。」と、同六九枚目裏一行目の「訴外」から同三行目末尾までを「その後、訴外ふじも訴外金松も病気が重くなり、訴外会社の経営の実際は控訴人が行うようになり、訴外金松に返還された前記定期預金証書は、控訴人に引き渡され、控訴人が管理していたが、一五〇〇万円相当分を特に区別することはなかった。右預金は、その後その一部は後記5認定のとおり訴外会社への貸付金とされ、訴外会社の決済資金に使用され、その一部は後記3のとおりの貸付信託等にされた。」と各改める。

(三)  同六九枚目裏末行の「なお」から同七〇枚目表六行目末行までを次のとおり改める。「(2)控訴人は、右裏預金につき、〈1〉右裏預金は訴外ふじのものであり、同訴外人から控訴人が贈与を受けた、〈2〉そうでないとしても、控訴人は訴外金松から一五〇〇万円相当分の贈与を受け、その履行も終わっている旨の主張をし、前掲乙第一八七号証及び控訴人本人尋問の結果(原審第一回ないし第三回、当審)にはこれにそう部分があるが、前示(1)の認定の経緯に照らして採用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。かえつて、前示(1)の事実によれば、右裏預金は訴外金松に帰属するものであり、また、訴外ふじのした控訴人に対する一五〇〇万円の贈与の意思表示も、未だ確定的なものでなく、訴外千枝子らに対する贈与額の説明として述べられた程度のものであると解するのが相当である。したがって、控訴人に対し贈与の履行の有無を判断するまでもなく、控訴人の主張は失当である。」

(四)  同七〇枚目裏一行目の「(」を「の結果(原審」と改め、同七行目の「証言」の次に「(原審、当審)」を加え、同八行目の「同本人尋問」を「控訴人本人尋問(原審第一回)」と改め、同七一枚目表二行目の「三九号証」の次に「、第四九ないし第五五号証、第五八号証(ただし、第四九号証の書き込み部分については、証人関ヨシ子の証言(当審)により真正に成立したものと認められる。)」を加え、同三行目及び同七二枚目表九行目の「証言」の次に「(原審、当審)」を、同一〇行目の「(」の次に「原審」を、同行目の「二回」の次に「、当審」を、同七一枚目表八行目の「出金」の次に「の一部」を、同裏一行目の「しかしながら、」の次に「前掲各証拠によれば、前記の出金額には、その入金額から見て、一時的な貸金に充てたと窺われるものがかなり含まれていることが認められる上、」を、同三行目の「具体」の次に「的」を、同七二枚目裏八行目の「ところ、」の次に「控訴人は、本件の税務調査当時から関与していた控訴代理人にもそのことを言わず、」を、同末行の「二月」の次に「ころ」を、同行目の「旨の」の次に「弁解を右代理人に述べ、本訴においてその旨の」を各加える。

(五)  同七三枚目表六行目の「前掲」から同裏末行末尾までを次のとおり改め、同七四枚目表一行目の「(3)」を「(4)」と改める。

「 後記3、5に認定のとおり、別表一三甲欄記載の定期預金、貸付信託等は、その名義に拘わらず、他の無記名の貸付信託と一括して控訴人名義にされ、更に他の金融機関に預金されたり(その預金額は当初の名義人ごとの金額と同一でない。)、控訴人又は訴外金松名義の訴外会社への貸付金とされているが、このような預金の異動状況及び前示2の各預金証書の保管、管理の状況を考慮すると、同甲欄記載の預金等は同一人に帰属するものと認められる。」

(六)  同七五枚目表二行目、同七六枚目表四行目、同七八枚目表三行目、同八〇枚目裏七行目、同八一枚目裏二行目、同八三枚目表三行目、同八六枚目裏一行目、同九〇枚目裏四行目及び同九一枚目裏一行目の各「(」の次に「原審」を、同七五枚目表末行、同裏八行目、同八五枚目表七行目、同九〇枚目裏四行目の各「証言」の次に「(原審)」を、同七六枚目裏一行目の「ない」の次に「乙」を各加え、同八九枚目表一〇行目の「前換」を「前掲」と改め、同九三枚目表一〇行目の「前記」から同九四枚目表七行目までを次のとおり改める。

「しかしながら、控訴人が一五〇〇万円を金松から贈与を受けたものとは認め難いことは、前示2(二)のとおりであるから、控訴人の右主張は失当である。」

(七)  同九六枚目表四行目の「価格」を「「相続税財産評価に関する基本通達」による評価額」と、同五行目の「ないから、」を「なく、右事実及び弁論の全趣旨によれば、本件相続当時の」と、同六行目の「と」を「を下回らないと」と各改め、同一〇〇枚目裏末行の「乙」の前に「、」を加え、同行目の「第一八八号証、」を、同一〇一枚目表一行目の「二、」を各削除し、同二行目の「原本」の前に「乙第一八八号証、」を、同三行目の「乙」の次に「第一九四号証の二、」を、同六行目の「(」の次に「原審」を各加える。

2  課税根拠法条について

控訴人は、本件更正処分が相続税法三五条に基づく更正であることを前提にして、本件更正処分には根拠法条を誤った違法があると主張している。

ところで、相続税法三五条に基づく更正は、国税通則法二四条に規定する期間を経過しても更正がなしうる特則を定めたものであり、相続税についても国税通則法に基づく更正処分をすることは妨げられていない。そして、当事者間に争いのない前示請求原因1ないし4の事実によれば、訴外金松が昭和四九年三月一四日死亡し、本件更正処分が国税通則法七〇条の期間内である昭和五二年六月二九日にされた(同日に控訴人からの更正請求に対する更正もなされた。)ことが明らかであり、本件更正処分は、同法二四条に基づいてなされたものであり、控訴人の右主張は、失当である。

二  以上の次第であって、控訴人の本訴請求は理由がなく棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木弘 伊東すみ子 筧康生)

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